
結論からお伝えします。
もし自転車で視覚障害者の白杖(はくじょう)を巻き込んでしまったら、その場から離れず、まずは「安全確認」「声掛け」「警察への連絡」をしてください。
- その場から離れない
- 相手にケガがないか確認し、落ち着いて声をかける
- 必要に応じて119番・110番へ連絡する
白杖は、ただの杖ではありません。
視覚障害者にとっては、安全に歩くための「目の代わり」です。
この記事では、実際に僕が白杖を自転車に巻き込まれた体験をもとに、事故が起きたときに何が起こるのか、そしてどのように対応すればよいのかをお伝えします。
自転車に乗る方だけでなく、視覚障害者の方や、ご家族にもぜひ読んでいただきたい内容です。

突然「バキッ!」白杖が折れた日
先日、近所のうどん屋さんへ昼ご飯を食べに行こうと、いつものように白杖を持って家を出ました。
その日は快晴でした。
僕は網膜色素変性症なので、晴れた日は特にまぶしさを感じやすく、普段以上に慎重に歩いていました。
お店のすぐ手前の信号が青になり、周りの歩行者も同じ方向へ歩き始めたので、「これなら安全だろう」と思って横断歩道へ足を踏み出しました。
その瞬間です。
「バキッ!」
目の前で大きな音がしたのと同時に、白杖が勢いよく引っ張られる感覚がありました。
何が起きたのか理解できないまま、僕の白杖は目の前を走っていた自転車の車輪に巻き込まれ、無残に折れてしまいました。

幸い、とっさに白杖を手放すことができたので、僕自身にケガはありませんでした。
ですが、これは本当に運が良かっただけです。
以前、視覚障害のある友人は、同じように白杖を巻き込まれた際、とっさに杖を握りしめてしまい、そのまま引っ張られて転倒してしまいました。
白杖と自転車の接触事故は、実は視覚障害者の間では珍しい話ではありません。
友人同士で話していても、「一度は経験したことがある」という人が少なくありません。
だからこそ、事故が起きた後の対応を知っているかどうかで、その後の結果は大きく変わるのだと思います。
白杖が折れた瞬間、正直に思ったこと
事故の直後、僕が最初に思ったこと。
それは「怖い」ではありませんでした。
「めんどくさいな……」
これが、一番最初に頭に浮かんだ本音です。
もちろん事故なので驚きました。
でも、それ以上に頭の中を占めていたのは、「また白杖を作り直さないといけない」という現実でした。
白杖はコンビニやスーパーで気軽に買えるものではありません。
自分の身長や歩き方に合わせて長さや材質を選び、事業所へ注文して作ってもらいます。
既製品もありますが、体格に合わないことが多く、歩きやすさや安全性を考えると、自分に合った白杖を使うことがとても大切です。
そのため、新しい白杖が手元に届くまでには、少なくとも2〜3週間ほどかかります。
さらに、白杖は視覚障害者にとって「補装具」と呼ばれる、生活に欠かせない福祉用具です。
通常は区役所などを通して手続きを進めてもらえますが、実は僕は今年の春、その制度を利用して新しい白杖を作ったばかりでした。
つまり今回は、その制度を利用できず、自分で事業所へ連絡し、注文し、やり取りを進めなければならなかったのです。
事故直後は、
- また一から手続きか……
- 新しい白杖が届くまでどうしよう……
- しばらくこの生活か……
そんなことばかり考えていました。
幸い、自宅がすぐ近くだったので、その日の帰宅は何とかなるだろうと思えました。
でも、「帰れるかどうか」よりも、「これから数週間どうやって生活しよう」という不安の方が大きかったのを今でも覚えています。
白杖は約15,000円しました。
「意外と高い」と感じる方もいるかもしれません。
ですが、本当に困るのは値段ではありません。
白杖が折れるということは、その日から自由に歩けなくなる可能性があるということです。
視覚障害者にとって白杖は、ただの持ち物ではありません。
安心して外を歩き、仕事へ行き、買い物をして、日常生活を送るための「目」の代わりです。
だからこそ、もし事故を起こしてしまったら、お金の話よりも先に、「相手が安全に帰れるか」を考えていただけると、本当にありがたいです。

視覚障害者が事故で一番困ること
事故が起きたとき、多くの方は「白杖が折れた」という事実に目が向くと思います。
でも、視覚障害者として本当に困るのは、その先です。
- 突然何が起きたのか分からない。
- 白杖を失うと、その場から動けなくなる。
- 周囲の状況が分からず、大きな不安を感じる。
- 一人で帰宅することも難しくなる。
僕の場合は、自宅が近かったこと、そして周りに助けてくれる方がいたことで大きな問題にはなりませんでした。
しかし、もし誰もいなかったら。
もし相手がそのまま立ち去っていたら。
そう考えると、今でも少しぞっとします。
白杖を巻き込んでしまったら、まずやってほしいこと
事故は誰にでも起こる可能性があります。
だからこそ、もし白杖を巻き込んでしまったら、慌てず次の順番で対応してください。
① まずは自転車を止めて声をかける
一番大切なのは、その場から離れないことです。
視覚障害者は、事故が起きた瞬間に周囲で何が起きているのか分かりません。
だからこそ、まずは
「自転車です。大丈夫ですか?」
と、自分が誰なのかを伝えながら声をかけてください。
たった一言ですが、その一言だけで安心感はまったく違います。
② ケガの確認をする
転倒していたり、痛みを訴えている場合は、迷わず119番へ連絡してください。
道路の真ん中など危険な場所であれば、安全な場所へ誘導することも大切です。
案内するときは腕を無理に引っ張るのではなく、
「私の肘につかまってください。」
と一声かけてから誘導してください。
③ 警察へ連絡する
今回、僕たちは話し合いだけで解決したため警察を呼びませんでした。
しかし今振り返ると、これは反省点だったと思っています。
お互い誠実に対応できたから問題になりませんでしたが、後から「言った・言わない」のトラブルになる可能性もあります。
物損事故であっても、まずは警察へ連絡し、状況を記録してもらうことをおすすめします。
④ 連絡先を交換する
白杖は修理や再購入が必要になる場合があります。
その場だけで終わらせず、お互いの連絡先を交換しておくと安心です。
今回は、自転車の方が白杖代として20,000円を手渡してくださいました。
僕は、お釣りが出たら返そうと思っていたので、「連絡先を教えてください」とお願いしました。
すると相手の方は、
「お釣りは迷惑料だと思って受け取ってください。」
と言ってくださいました。
それでも僕としては、このまま終わるのは後味が悪いと思い、「新しい白杖が完成したら、一度ご連絡しますね」という約束をして連絡先を交換しました。
今回、一番心に残った出来事
今回の事故で一番印象に残ったのは、自転車の方が逃げなかったことだけではありません。
周りにいた通行人の皆さんが、すぐに助けてくださったことです。
事故は突然起こります。
視覚障害者も、自転車に乗っていた方も、どちらもパニックになります。
そんな中で、通行人の方々が
「大丈夫ですよ。」
「何かお手伝いしましょうか?」
「落ち着いてください。」
と次々に声をかけてくださいました。
その言葉があったからこそ、僕も安心できましたし、自転車の方も少しずつ落ち着きを取り戻し、お互い冷静に話し合うことができました。
事故というと、加害者と被害者だけの問題に思われがちです。
でも実際には、その場に居合わせた第三者の「大丈夫ですか?」という一言が、事故後の空気を大きく変えてくれることもあります。
この出来事から考えたこと
今回の事故は、僕にとっても考えさせられる出来事でした。
僕は今回、自転車の方を責めたいわけではありません。
事故は誰にでも起こる可能性があります。
だからこそ、お互いが正しい知識を持っていることが何より大切だと感じています。
自転車に乗る方へお願いしたいのは、次の3つです。
- 白杖を持った歩行者を見かけたら、一時停止または徐行する。
- 追い越すときは、ベルを鳴らす前に十分減速する。
- 交差点や横断歩道では、歩行者の動きをよく確認する。
特に後ろから突然ベルを鳴らされると、驚いてしまい、とっさに車道側へ避けてしまうことがあります。
事故にはならなくても、二次被害につながる危険もあるため、状況を見ながら慎重に対応していただけると助かります。
よくある質問
Q. 白杖を折ってしまったら弁償しなければいけませんか?
事故の状況によって異なりますが、白杖は視覚障害者にとって生活に欠かせない補装具です。
まずは警察へ届け出を行い、必要に応じて保険会社へ相談することをおすすめします。
Q. 自転車保険は使えますか?
加入している自転車保険や個人賠償責任保険で対応できる場合があります。
契約内容によって異なるため、まずは保険会社へ確認しましょう。
Q. ベルは鳴らした方がいいですか?
状況によります。
真後ろから突然ベルを鳴らされると、驚いてしまい、かえって危険になることがあります。
十分に減速し、安全な距離を保ちながら通行することが大切です。
まとめ
白杖は、視覚障害者にとって「目」の代わりとなる大切な道具です。
もし巻き込んでしまったら、逃げずにその場に留まり、安全確認・声掛け・警察への連絡をしてください。
そして、もし近くで事故を目撃した方がいたら、当事者だけでなく周囲の人も、ぜひ「大丈夫ですか?」と声をかけていただけたらと思います。
今回、僕が冷静に対応できたのは、自転車の方だけでなく、周りにいた通行人の皆さんが声をかけてくださったおかげでした。
事故は誰にでも起こり得ます。
でも、その後の対応次第で、不安や混乱を大きく減らすことはできます。
この記事を読んでくださった方が、明日どこかで白杖を持った人とすれ違ったとき、この話を少しだけ思い出していただけたら嬉しいです。
ほんの少し速度を落とすこと。
ほんの少し距離を空けること。
そして、「大丈夫ですか?」と声をかけること。
その小さな行動が、視覚障害者にとって大きな安心につながります。
お互いが思いやりを持って道路を利用できる社会になることを願っています。


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